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花あやめ五人揃
菊川英山画 文化8年(1811)頃 味の素食の文化センター所蔵
 絵の題には「花あやめの五人揃」とありますから、5人の女性のいる揃い物の1枚と思われます。絵師の菊川英山(えいざん)は江戸後期の文化初年から幕末まで、喜多川歌麿歿後の美人画を主導した人として知られています。
 絵の左上の扇に書かれた文字は判読できませんが、所蔵目録の解説には「きぬきぬの情しらは今ひとつうそをもつけや明六つのかね」とありますから遊郭(新吉原)の朝の光景のようです。明六つは季節により差がありますが、およそ現在の午前6時頃です。

 中央の台の物の料理は、大皿は刺身、二つの深鉢は煮物や酢の物らしく、赤い塗りの蓋物も見えます。手前には散蓮華(ちりれんげ)がありますが、当時の散蓮華は鍋物に添えてあることが多く、この場合は何に使ったのでしょうか。
 台の物は台屋と呼ばれる遊郭専門の仕出し屋が、注文に応じて運んでくる料理で、翌朝の五つ時(午前8時頃)には、台屋が食器や台の回収に廻ったといいます。

 この絵では遊女2人が台の物を前にしてくつろいでいるように見え、残り物を食べているのでしょうか。遊女の食事は太夫、格子など階層によって差があり、多くは粗食で、台の物の残りはご馳走だったようです。なお台の物については、NO.28121129でも触れています。

 絵の中央の柱にかけてある籠には花が挿してありますが、江戸中期以降は生け花が町家や遊郭にも流行し、遊女の教養の一つでもあったようです。生け花は古くは仏前の供花に始まり、室町時代には宗教から離れて鑑賞して楽しむものになりました。花の挿し方の技術も工夫されて、立花(りっか)、茶花、投げ入れ花、盛り花などの様式がありましたが、江戸時代には定型化した立花よりも、自由な投げ入れ花が好まれたといいます。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
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