四季で楽しむ江戸グルメ
天ぷらと江戸前の魚
江戸っ子が天ぷらを食べ始めたのは今から250年ほど前のこと。天ぷらは屋台で売られていた。天ぷらを揚げると油煙が出るので換気が必要だし、火事の危険もある。天ぷらを売るには屋台が適した営業形態だったからだが、客の方も手軽に目の前で揚げ立ての天ぷらが食べられるメリットがあった。天ぷらは何といっても揚げ立てが一番美味い。屋台天ぷらは立食いしやすいように串揚げにされ、客はそれを丼鉢の天つゆに浸して食べていたが、江戸時代は魚介類を揚げたものを天ぷらといい、天ダネには芝海老、アナゴ、貝の柱、コハダ、スルメイカ、ギンポ(ギンポウ)、ハゼ、コチといった江戸前の魚が使われていた。
芝海老は、芝浦辺で多く獲れたことから名付けられた。アナゴは品川宿の南にある鮫洲から浜川町にかけて獲れる「浜川」ものが名物だった。貝の柱は、馬鹿貝の柱のことで、小柱と呼ばれ、これはかき揚げにされた。コチはメゴチのことで、メゴチ、ギンポ、ハゼは天ぷらにすると美味い魚だが、特にメゴチとギンポは、天ぷらなるために生まれてきた魚といわれ、天ぷらにすると抜群に美味い。
スルメイカやコハダも天ダネにされているが、注目したいのはコハダである。コハダは、今ではすしダネのほうにお株を奪われてしまったが、天ぷらにして食べても美味い魚だ。是非お試しいただきたい。
三代目中村仲蔵が初めて屋台で食べた天ぷらはコハダで、安政2年(1855)10月7日に「こはだを三ツ喰ひし代を払ひ、そこそこに立ち出で」と自叙伝『手前味噌』に記している。
江戸前の魚は天ぷらとの相性が良い。江戸の天ぷら屋台は、こうした江戸前の魚を天ダネに使い、揚げたての天ぷらを客に提供して繁昌。幕末頃には、夜間、人通りの多い所には天ぷら屋台が町ごとに3,4軒も出ていた。
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