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江戸の夕涼みといえば両国橋。『東都歳事記』(1838)には、5月28日の項に「両国橋の夕涼今日より始り、八月二十八日に終る。ならびに茶屋、みせ物、夜店の始にして、今夜より花火をともす。逐夜(まいや)貴賤群集す。」とあります。
現行暦でいえば、ほぼ6月末から9月末にあたり、暑い盛りです。両国の納涼や、花火の賑わいの絵ば、NO.65と66で紹介しましたので、今回は人物を中心にした夕涼みの絵をとり上げました。
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絵には女性のいる2艘の屋根船と、手前に1艘の屋根だけが描かれ、左手には遠く大勢の人で賑わう両国橋が見え、隅田川には多数の屋根船が浮かんでいます。中央の遠景に見える提灯を沢山つるした大きな船は屋形船のようです。屋根船は日よけ船ともいい、4本柱に低い屋根のある小船で、大形のものを屋形船とよびました。
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『江戸の春秋』(鳶魚江戸文庫15・中公文庫)によると、延宝年間(1673~1681)が屋形船の全盛期で、宝永3年(1706)に屋形船は100艘に制限され、文化中頃には20艘程に減り、そのかわりに屋根船が600艘近くにも増えたとあります。
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右側の女性の前には徳利と、皿に盛った煮物らしいものと刺身が見えます。浅い大皿の上にガラスすだれを敷き、つま(添え物)の山形に盛った大根おろしも見えて、NO.84で引用した『守貞謾稿』(1853)の刺身の記述と一致します。ただガラスすだれの上の刺身が何か見当がつきません。刺身の切り方には、細長く切る細作りもありますが、盛り方が違うようです。この絵の主題は夕涼みの女性なので、点景の食べ物は写実的に描く必要がなかったのでしょうか。 |
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