ホーム > 歌舞伎座資料館 > 歴史的文献 > 株式会社歌舞伎座目論見書
表紙記載項目
- 株式会社歌舞伎座目論見書
- 昭和24年9月5日
- 株式募集価格
- 縁故募集
- 一株につき金50円
- 一般公募
- 一株につき金65円
- 発行会社名:株式会社歌舞伎座創立事務所
- 所在の場所:東京都中央区木挽町四丁目三番地
- 代表者:発起人総代 大谷竹次郎
解説
昭和24四年に、株式会社歌舞伎座株式の公募がおこなわれた際に発行された目論見書です。
現在の歌舞伎座の原型は岡田信一郎氏設計によって大正14年1月に開場いたしましたが、昭和25年5月の東京大空襲により焼失しました。
戦後、使用可能な基礎、側壁、屋根の一部を利用し修復工事を行ない現在の歌舞伎座が誕生しました
表紙及び、建物のパースがカラーで描かれ、平面図も添付されています。読んでいくうちに、歌舞伎座再建の工程や当時の経営方針、また当時使用された木材などの建設資材の量までがわかり、当時の歌舞伎座再建の苦労を数字でしのぶことの出来る資料です。
写真
全景
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観客席
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玄関広間
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設計正面図
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客席平面図
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広間平面図
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1.会社の商号
株式会社歌舞伎座
2.会社の目的
当会社は旧歌舞伎座を修復し下記の事業を営むことを目的とする
- 演劇、演芸、映画その他各種の興行に関し興行場並びに附属室の賃貸
- 興行場附属の食堂、売店等の賃貸
- 芸能に関する印刷物の発行
- 国際観光に関する事業の斡旋
- 都民の文化向上に関する事業の斡旋
- その他前各号に関連する附帯事業
3.会社設立年月日
昭和24年10月20日(予定)
4.資本金
(公称)150,000,000円
(払込)150,000,000円(予定)
5.資本
原文資料に表記載
6.事業の概要
6-A. 設立の趣旨並びに経過
戦災前の歌舞伎座(松竹株式会社所有)は伝統ある歌舞伎劇の真髄を味わい得る劇場として、二十数年の長い間多数の国民に親まれ、わが国民文化の上に多大の貢献をなしたのみでなく、遠く海外にまで宣伝せられ、来遊する外国人に非常な称賛を博したのである。
然るに昭和20年5月25日歌舞伎座は戦災により焼失して今日まで復興を見るに至っていない。
従って新日本が文化国家として再建の途上にある現状に鑑み、旧歌舞伎座を復興し有意義なる経営をなすことは、緊急の事業といわねばならぬ。すなわちこれによって必然的に
- わが芸術界各方面に希望と刺激を与へ、舞台芸術を中心として、国民文化の振興、各国文化の交流等文化国家建設の一基盤となる。
- 国民は慰安と娯楽に恵まれ、おのづから勤労意欲の培養に効果をあげるだけでなく、文化の有する感化力によって民主主義教育の機会を与へられ、国家の再建に役立つこととなる。
- さらに海外観光客の吸収と外貨の獲得、導入等わが国経済再建に役割を演ずることができる。
以上の趣旨において歌舞伎座の復興に関し所有者である松竹株式会社において研究調査を続けていたのであるが、あたかも東京都当局においても歌舞伎座の残骸を現在のまま放置することなく、都民文化向上の施設として、これが復興に関し多大の熱意を示され、官庁の許可事項及び建築資材等について積極的に援助せられることとなった。
ここにおいて、歌舞伎座復興の議が漸く熟したので種々の関係を考慮し、大谷竹次郎中心となり、有志協議の結果、新たに株式会社歌舞伎座を設立し敷地は所有者松竹株式会社から借受け残存建物は同社より譲受けてこれを修復し近代的設備を施し往昔の歌舞伎座を再現することとした。
本劇場の経営に関しては伝統ある歌舞伎劇を主とし、各種演劇、音楽、舞踊、映画等時代の要求に応じあらゆる部門に開放し、なお外国の優秀なる各種芸術の紹介についても積極的に力をつくすこととする。
そしてこれらの興行は、松竹株式会社の如き経験に富むものをして当たらしめることが復興の実をあげる所以であると認め主として同社に有料貸与し、もって興行を委ねる方針を執ることとする。
株式会社歌舞伎座の所要資金総額は金2億3千万円であるが、まず資本金1億5千万円を以って設立し、適当な時期を選び金8千万円の借入金をもって充てることとする。
8月16日東京都千代田区の丸の内工業倶楽部において株式会社歌舞伎座の設立発起人準備委員会を開き、定款その他所要事項を具体的に審議し法定発起人を選定した。引続き法定発起人会を開催し株式会社歌舞伎座設立に関し定款その他創立に関する所要事項を決定したのである。
発起人準備委員会並びに法定発起人は次の通りである。(発起人準備委員並びに法定発起人表は原文資料に表記載)
6-B. 修復工事設計の大要
東京都中央区木挽町四丁目三番地に戦災を受けて残存(損害は全建物及び設備に対し劇場約80%楽屋約50%である)する歌舞伎座は基礎、側壁、屋根の一部及び附属建物が破壊を免れているので、そのまま利用し得るから、これが修復は新築と異なり比較的容易である。修復工事の設計については東京美術学校教授吉田五十八及び建築家木村武一両氏等が一年間に亘り苦心の結果できたものであり、旧歌舞伎座の建築が有した奈良朝時代の典雅壮麗な趣と桃山時代の豪華絢爛なる味ひとが渾然一体となった独特の様式を屋根の一部を除いてそのまま再現し、さらに近代的要求をとり入れて出来る限り改善を施し、殊に観客席の配置に意を注ぎ収容人員の増加を図りながら観客の視界を良好にすると共に照明、音響、換気、暖房、冷房等の装置を完備し防火衛生の構造施設を完全に施し、もって近代的な模範的大劇場として名実兼備のものとしたのである。
尚劇場経営に伴う附属施設として食堂、喫茶室、各種売店等を設置し観客の便宜に供するの外、美容室、理髪室を設備することにした。
旧楽屋の残存建物はこれを適当に修復し楽屋及び事務室として使用することにした。
その構造、面積、用途、収容人員等は次に示す通りである。
- (イ)表「残存劇場修復工事」は原文資料に記載
- (ロ)表「残存楽屋修復工事」は原文資料に記載
- (ハ)表「観客席その他面積及び収容人員等」は原文資料に記載
- (ニ)工事施工
本工事は規模の宏大設備の複雑多様なることはもとより建築美の点からも現在建築界の事情の下においては相当苦心を要するのである。しかも完全なる施工を必要とすべきことは当然であるから、建築業者数名から見積を徴した上、清水建設株式会社に請負はしむることに内定している。
尚これが建築許可に関しては大谷竹次郎名義により昭和23年12月22日付をもつて東京都建築局指導課経由、建設省住宅局指導課に申請中である。既に同省建築研究所第三部において修復すベき残存建物の強度試験も終了した。
着工は建築の許可あり次第とし、竣工は昭和25年9月末日の予定である。 - (ホ)主なる所要資材
主要資材は次の通りである。これに要する割当申請に関しては建築許可申請と同様それぞれ所要手続中であって、昭和24年第3、4半期より昭和25年第3、4半期に亘り割当がある予定である。
割当が遅延するときは、工事請負者において手持資材をもって一時立替をなし工事の進捗に差支ないよう万全の策を講ずる予定である。
「附帯表」は原文資料に記載
6-C. 工事請負者との契約内容
修復工事の施工に関しては前記の如く清水建設株式会社にこれを請負はしむる予定であるが正式契約の調印には至っていない。
現在契約案の内容の大要は次の通りである。
- 請負金額
- 歌舞伎座建築工事費
- 117,160,000円
- 其の他設備工事費
- 78,840,000円
- 計
- 196,000,000円
- 工事費支払方法
- 第一回
- 契約成立と同時に請負代金の10分の1
- 第二回
- 工事中途に請負代金の3分の1 但し第1回分を含む
- 第三回
- 工事完成の時に請負代金の3分の1
- 第四回
- 工事完成後6か月以内に請負代金の3分の1
- 工事完成期日
工事着手後13か月
尚楽屋修復工事に関しては同社よりの見積書は未提出であるも工事費は8,000,000円にして支払方法、工事完成期日等前述の歌舞伎座建築工事の標準による見込である。
6-D. 経営の大要
- (イ)歌舞伎劇その他各種演劇の興行
修復工事竣工の上は主として歌舞伎劇の興行をなし一般国民はもとより、海外来客に対し伝統ある演劇の真髄を観賞する機会を与えることを重要な事業とし、これによつてわが歌舞伎劇の維持向上に資するは勿論、進んで新作歌舞伎劇の上演等、俳優の技術向上と相俟って歌舞伎劇の発展に貢献するつもりである。
新劇、新派劇を初め歌劇、レヴュー等各種演劇に亘り時代の要求に応じ、その上演につとめ、演劇文化の発達に役立たし、映画並びに各種演芸等についても適当に興行することとする。 なお、外国大劇団又は有力なる芸術家のために本劇場の舞台が利用せられるよう努力する。
前述の方針による各般の興行は概ね松竹株式会社と特約し、本劇場並びに附属室を最低保証金額を附した歩合計算による料金をもつて賃貸する方法をとることにする計画であるが松竹株式会社とはまだ具体的な交渉はしてない。 - (ロ)食堂、喫茶室、売店の経営
食堂、喫茶室を設置し観客の便宜に供すると共に各種売店を設置し我国工芸品、雑貨類、絵葉書、写真、案内書、果実、菓子類等を販売し、観劇土産を兼ねて観光宣伝に資する。
これか経営については適当なる者を選定し最低保証金額を附した歩合計算による料金をもつて貸与をなす予定である。 - (ハ)出版印刷物の発行
演劇その他芸能に関し研究又は宣伝紹介並びに上演種目の筋書解説書等の出版物を発行発売し必要により外国語による出版もなし斯界の向上、宣伝紹介の実を挙げると共に観客の便に供する。 - (ニ)国際観光と外貨の獲得
歌舞伎座の落成は東都に観光目標として新に一偉観を加へるのみでなく、ここに上演せられる歌舞伎をはじめ各種の演劇等が海外よりの観光客に対して多大の魅力をあたへることは当然予想せられるところである。
本社は特に上演種目の選定等に留意し英文等による観劇案内、解説書の発行、有能なる解説者の配置等観覧客の吸収に努め更に進んで官庁又は有力団体等の外人接待施設としての利用に協力し、もつて国際観光客、外貨の獲得に一新面目を発揮するよう特に興行者と協定することとする。 - (ホ)都民文化の向上
都民文化の向上に資するため東京都当局並びに興行者と協議し特に都民に対して低料金をもつて本劇場を開放する予定である。 - (へ)その他の付帯事業
一般食堂の経営 地階に食堂、喫茶室等を設置し、商談、各種宴会等の利用に提供すると共に観客の便宜を図る。但し、この経営主体は別個とし当社は各室設備等を包括して有料貸与の形式をとる。
美容室、理髪室の経営地階に美容室、理髪室を設置し、経営者に有料貸与し優秀なる技術と完備せる設備とを有する経営をなさしめ、もって一般客並びに観客の利用に供する。
上記の貸与料金はいづれも最低保証金額を附して歩合計算によるものとする。
6-E. 企業予算の大要
- 一、旧歌舞伎座建物の残存物件
(楽屋建物の残存物件含む) - 5,000,000円
以上は松竹株式会社から会社成立後譲受ける - 小計
- 5,000,000円
- 一、歌舞伎座建築工事費
- 117,160,000円
- 一、同 水道衛生設備工事費
- 9,148,000円
- 一、同 換気設備工事費
- 12,990,000円
- 一、同 電気設備工事費
- 23,819,000円
- 一、同 舞台設備工事費
- 5,426,000円
- 一、同 家具設備工事費
- 15,058,000円
- 一、同 暖房設備工事費
- 4,364,000円
- 一、同 冷房設備工事費
- 8,035,000円
- 小計
- 196,000,000円
- 一、楽屋修復工事設備費
- 8,000,000円
- 小計
- 8,000,000円
- 一、設計監督費
- 4,000,000円
- 一、興行用器具備品購入費
- 4,000,000円
- 一、運転資金
- 6,000,000円
- 一、株式会社創立諸費
- 10,000,000円
- 小計
- 24,000,000円
- 総計
- 233,000,000円
6-F. 資金計画
所要資金は233,000,000円にして、これに関する資金計画は次の通りとする。
- 払込資本金
- 150,000,000円
- 株式払込超過金
- 3,000,000円
(200,000株に対し1株につき15円) - 借入金
- 80,000,000円
- 計
- 233,000,000円
而して修復工事費204,000,000円(劇場196,000,000円、楽屋8,000,000円)の支払方法は工事請負者と次の通り内約している。
- 一、契約成立と同時(請負代金十分の一)
- 20,400,000円
- 一、工事中途(同3分の1、但し前号金額を含む)
- 47,600,000円
- 一、工事完成の時(同3分の1)
- 68,000,000円
- 一、工事完成後6か月以内(同3分の1)
- 68,000,000円
- 計
- 204,000,000円
工事着手後月別の支払資金見込は次の通りである。
「月別支払資金表」は省略
上記による昭和25年9月までの所要資金171,210,000円は次の資金をもつて支弁する。
- 払込資本金
- 150,000,000円
- 株式払込超過金
- 3,000,000円
- 計
- 153,000,000円
- 差引不足金
- 18,210,000円
上記不足金18,210,000円及び工事費残額金68,000,000円計86,210,000円は
- 借入金
- 80,000,000円
をもって充当し尚不足金6,210,000円は昭和25年10月以後(開場後)事業収入等をもって賄うこととする。
而して借入の時期は昭和25年9月における不足金18,210,000円は工事完成の時とすべきも、工事完成後6か月以内に支払を要する工事費残額68,000,000円に相当する借入金は昭和26年3月までに行へば足りる見込である。
以上借入金については日本銀行融資斡旋部を通じ当社設立後適当の時期において交渉を開始する予定である。
7.会社設立後譲受ける財産の内容
松竹株式会社から次の通り旧歌舞伎座建物の残存物件を当会社設立後譲受ける。但し正式契約ではない。
- 所在地
- 東京都中央区木挽町四丁目三番地の四号
一、鉄骨鉄筋コンクリート造地階共五階建元劇場歌舞伎座の戦災により焼失した建物延2,893坪41の残存物件
- 所在地
- 東京都中央区木挽町四丁目三番地の四号
一、鉄骨鉄筋コンクリート造三階建元劇場歌舞伎座楽屋の戦災により焼失した建物延418坪6の残存物件
以上価格金5,000,000円とする。
8.発起人の住所氏名及引受株式数
原文資料に表記載
9.株式募集の条件
原文資料に表記載
10.株式名義書換の場所
東京都中央区木挽町四丁目三番地の四号株式会社歌舞伎座事務所
11.株式名義書換の停止期間
毎決算期終了の翌月から定時株主総会終了の当日まで及び臨時株主総会の通知を発した日からその総会終了の当日までとする。なおあらかじめ公告の上一定期間停止することがある。
12.公告新聞
東京都において発行する日本経済新聞