建替え現場から
「瓦」製作開始
歌舞伎座の建物、その象徴の一つが「瓦」。
しかも銀座で、これほどの瓦を頂く建物は他になく、ひと際目を引きます。
建築中の第五期歌舞伎座も、従来同様、大屋根の瓦屋根で、使われる瓦は約10万枚。
今年の9月から瓦の生産が始まりましたが、すべて焼き上げるのに来秋までかかります。
その生産現場を訪れました。場所は、愛知県高浜市、三州瓦のブランド名で知られる産地です。
現在、全国で50ヶ所近くある瓦の生産地の中で約60%、最大の出荷枚数を占めるのが、ここ三州。
三州とは、愛知県西三河地方を指します。
日本における瓦の起原は、飛鳥寺造営(その完成は596年)の頃のこと。
使われる場所でそのつど焼かれてきた瓦ですが、時代が下り、一般の住居でも広く使用されるようになった1700年頃から、良質な三河粘土と、船便搬送に恵まれた三州で、瓦産業が発達しました。
100年以上持つといわれる三州瓦は、吸水率が低く、凍害にも強いのが最大の特徴です。
板状の粘土を、瓦の形に仕上げていく工程を見せてもらいました。
型抜きや紋様にはプレスの機械を使いますが、曲げて、くっつけて、形を整える、それは一つ一つの手作業です。
大きな粘土細工ですが、受ける材料の印象は、少し硬めのクリームで、エッジが効くという・・、でき上がりの大きさや重さとは不釣り合いな質感を感じる作業でした。
成形された姿、粘土の色はやや黄土色 形を整えるのはすべて手作業
別の工房では、鬼瓦の製作が進んでいて、こちらは、鬼師と呼ばれる専門の瓦職人が手掛けます。
間近に見る鬼瓦、圧倒される大きさと迫力ですが、力強さの中にも優雅な趣が。
美しい曲線を描く切れ込みの内側には、微妙な膨らみがあり、こういった部分は素手で整える、と言っていました。
新劇場では約40個の鬼瓦が乗る予定で、写真のものは、それでもまだ小さい方です。
歌舞伎座では最も小さい鬼瓦 鬼瓦を支える鰭(ひれ)の曲線や膨らみ
瓦は、焼き上げると約1割ほど収縮するため、その分を見越して成形されますが、そのあたりのカンどころにも職人の技が光ります。
右側が焼き上がり、左のものがここまで縮む
この後、1週間ほどネカせて安定するのを待ち、さらに10日間の乾燥。
窯では1,100°~1,150°の高温で焼き上げますが、この高温焼成が可能なことも三河粘土の特徴といわれ、三州瓦の高品質を実現しています。
その上、今度の瓦には、JISより厳しい自主基準が設けられました。
強度や吸水率など、その規格をクリアできたものだけが新劇場の屋根を守ります。
瓦を葺く工程、来年1月過ぎには早くも始まる予定です。