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福山そば屋の店先
『絵本三家栄種』(明和八年刊)
茶飯売
『近世風俗志』(守貞漫稿)
 

  柳沢信鴻(のぶとき)の芝居茶屋での食事の内容は、主食のほかは汁、煮物、焼物、漬物が基本で、時には膾(なます)や和物(あえもの)が加わります。
  食事記録のある49日間の食事回数は、朝、夕(昼)、夜を合わせて92回ですが、主食は茶飯12回、茶漬6回、菜飯1回、そば14回、ぶっかけ3回が記されています。残りの56回は特に記入がないので白米飯と考えられます。

  茶飯とあるのは現在のような醤油味の飯ではなく、当時の茶飯は茶の煎汁で炊いたものが普通でした。江戸では夜おそい時間に、茶飯とあん掛け豆腐を売り歩く茶飯売りがいたそうですから広く好まれていたのでしょう。菜飯は蕪(かぶ)や大根の葉をゆでて細かく刻み、薄い塩味で炊いた飯に混ぜたものです。

  そばはせいろ(蒸籠)に盛った盛りそば、ぶっかけはつけ汁をかけたそばのことで、後にはかけそばと呼ばれるようになります。両方合わせて17回ありますが、うどんは1回もなく、関東のそば好き、関西のうどん好きの傾向は当時からのもののようです。また17回のそばの中で7回に福山そばとありますが、福山は市村座の東隣にあったそば屋で、芝居小屋や芝居茶屋への出前が多かったようです。

 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
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