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(あつらへ)織時世好
歌川豊国(三世)画
弘化元年(1844)
味の素食の文化センター所蔵

 この錦絵は、縦2枚継の珍しい形のもので、織物(反物)を題名にした揃物の一つです。母親に髪を結ってもらっている幼児は、篭の中の花と果実に見える物を一つ口に入れています。解説によると篭の中の物は砂糖菓子らしいとあり、本物の花や果物に見える砂糖菓子といえば金花糖です。金花糖はなつかしい昔の菓子になりましたが、現在でも金沢などでは、雛祭の菓子として篭盛で売られています。
 金花糖は有平糖(あるへいとう)の1種で、白砂糖を練って型に入れて焼き、刷毛などで彩色し、魚や果物など種々の形に作った中空の砂糖菓子です。
 有平糖はポルトガル語のアルフェロア(砂糖菓子)が語源の南蛮菓子で、17世紀初めに伝来したものです。砂糖を煮詰めて冷やしてから引きのばして細工したもので、江戸時代には様々なものが工夫されて流行しました。
 江戸初期には高級な贈答品でしたが、国産砂糖が使われるようになった江戸後期からは一般化したようです。
 『守貞謾稿』(1853)には金花糖について次のように記されています。
 「有平は専ら種々の形を手造りにするもの多し。しかるに近年、京坂にて鎔制
(ようせい)にするものあり。白砂糖を練りて鎔形(いがた)をもって焼き、しかる後に筆・刷毛等にて彩を施し、鯉・鮒・うど・竹の子・蓮根その他種々を製す。眞物のごとし。号けて(なづけて)金花糖といふ。嘉永に至り江戸にも伝へ製す。」
 なお、金花糖を食べている幼児の髪型は芥子坊主(けしぼうず)と呼ばれ、頭頂のところだけ残してまわりをそったもので、芥子の実に似ているところからの名です。
 『守貞謾稿』には芥子坊主を略して京坂では“けしんぼ”といい、江戸では“おけし”というとあります。
 
 
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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