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奥津(東海道宿駅の一つ)
葛飾北斎画 文化元年(1804) 財団法人味の素食の文化センター所蔵
右上に「画狂人北斎画 江尻へ一里廿丁」とあります。奥津(興津)の名物、鮑・さざえ・甘鯛を描いたもの。
 
 8月も下旬になり、咲き始めた萩の花に秋の気配も感じられるようになりました。酷暑の間は納涼の話を4回も続けたので、今回は貝類の中で美味第1位の鮑の話です。
 鮑は鰒・蚫・石決明とも書き、縄文時代の遺跡からも殻が出土して、古くから日本人の食料であったことが推定されています。

 
 『延喜式(えんぎしき)』(平安中期の法典)には約40種の鮑の加工品の名があり、美味な食品として当時の貴族に珍重されていたようです。加工品に一つ熨斗鮑(のしあわび)は、鮑の肉を薄く長くむいてのばして乾燥したもので、初めは食べ物でしたが、後には祝儀の贈り物につけるものになり、現在でも紙製の熨斗にその名を残しています。
 江戸時代の料理書でも、鮑は貝類の筆頭にあげられていますが、『料理物語』(1643)には鮑の料理として次のようなものがあります。「貝焼 煮貝 酢貝 刺身 蒲鉾 生干(なまび) ふくら煎 野衾(のぶすま) 鱠 叩き鮑 わさびあへ」
 貝焼は貝殻を鍋かわりにして煮るもの。生干は鮑を薄く切り酢に漬けて干して焼くもの。ふくら煎は薄切りにした鮑を、沸騰した調味液に入れて縮ませてすぐにとり出して供するもの。
 野衾は小鳥を叩いてさっと煮て、鯛を叩いて熱湯をかけておき、鮑は薄くへぎ切りにしてさっと熱湯を通して縮ませ袋のようにして、沸騰した煮汁にこの三つを入れて煮ると、小鳥と鯛は鮑の袋に包まれるという珍しい煮物で、作ってみたいと思いながら鮑が高価なため、まだ実現していません。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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