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前回に続いて異類合戦物の、擬人化した餅と酒の戦いの絵です。餅の軍勢の多くは餅菓子ですから、菓子と酒の戦いで、下戸(げこ)と上戸(じょうご)の戦いともいえます。
江戸時代後期は初期にくらべて食生活も豊かになり、絵の中の菓子や酒も庶民に親しいものでした。 |
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左側の菓子の軍勢は赤旗で、右側の酒の軍勢は白旗で、酒軍の方が優勢に見えます。
菓子軍の大将は「吉例目出大夫春餅」の名の鏡餅で、胴体は菓子箪笥(たんす)、鎧(よろい)の袖などは有平糖(あるへいとう)のようです。
酒軍の大将は「初尾神酒守剣菱(はつおみきのかみけんびし)」の名で、顔は桝(ます)、胴体は剣菱の商標のついた菰樽(こもたる)、鎧の前の草摺(くさずり)は酒の通い帳、かぶとは漏斗と瓶子(へいし)に見えます。なお剣菱は当時最高級の酒の酒銘です。
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両軍とも20人程の軍勢で、人名ではわかりにくいので、菓子と酒の名であげてみましょう。菓子軍は鏡餅・切餅・菱餅・安部川餅・煉羊羹・桜餅・萩餅(牡丹餅)・鹿の子餅・団子・饅頭・きんつば(刀のつばの形)・みめより(四角のきんつば)・飴・汁粉・きぬた巻・腹太餅・大福・ちまき・今坂餅・しんこ細工。そのほかに盾に牛皮餅・唐饅頭・カステラの名が見え、大部分は現在もある菓子です。
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酒軍の酒銘は文字では玉緑・男山・泉川・老松など、商標では剣菱・野菊・七ツ梅・三つうろこ・三国山などがあり、いずれも江戸で人気のあった伊丹酒です。江戸の酒は盾に書かれた瀧水・明月・宮戸川などで評価は低く、人気のあったのは豊島屋の白酒でした。
なお、本稿は2002年10月の虎屋文庫の「お菓子とお酒の大合戦」展で配布された冊子を参考にしています。 |
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