前回は「田楽とおでん」の話でしたが、現在の鍋料理の人気第1位は煮込おでんだそうです。煮込おでんは明治以降のもののようですが、江戸時代にはどんな鍋料理があったのでしょうか。
鍋は古代から煮炊きに使われていますが、鍋で煮ながら食べる鍋料理は、熱源を食事の場所へ運べるようになった江戸時代からと考えられます。料理書に書かれた鍋料理は少ないのですが、探してみると次のようなものがあります。 |
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江戸初期の『料理物語』(1643)には、煮物の部に鍋焼があり、「なべ焼、みそ汁にてなべにて其まま煮候也。たい、ぼら、こち、何にても取あはせ候」とあって、みそ汁で煮る鍋料理です。鍋焼の名は、現在も鍋焼うどんなどに残っています。
貝焼は、あわびや帆立貝などの貝殻を鍋にして、魚介類に茸類などを取り合わせて煮る料理で、当時流行したらしく、多くの料理書に見られます。現在も秋田県の郷土料理に大きな帆立貝の貝殻を鍋にする“しょっつる貝焼”があります。 |
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江戸時代の豆腐料理は多彩ですが、『豆腐百珍』(1782)には、現在の湯豆腐に相当する“湯やっこ”があります。やっこの名は、武家の下僕を奴(やっこ)とよび、その着物の紋が賽(さい)の形だったので、大きい賽の目切りの豆腐をやっこ豆腐とよんだからといい、現在も“冷ややっこ”の名は残っています。
なお、鋤焼(すきやき)は現在では鍋料理ですが、江戸時代には、農耕用の鋤を鍋のかわりにして魚鳥などの肉を焼く焼き物でした。 |
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