江戸時代の料理書の中で、すしの作り方が詳しく書かれているのは『名飯部類(めいはんぶるい)』(1802)です。この本は米料理の専門書で、飯の炊き方、変わり飯の作り方、雑炊や粥の作り方と共に、33種のすしについての記述があります。
中には鮒ずしのように、作り方もわからず、食べたこともないが、名称だけあげておくというようなものもありますが、こけらずし、海苔巻ずし、茶巾ずし、鯖ずしなどは、詳しい作り方があります。この中から押しずし(箱ずし)の代表的なものとして、こけらずしの作り方を要約してみましょう。 |
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「すし飯は精白米1升(1800ml)に水1升の割合で、塩5勺(90ml)を加えて炊く。飯を広い器にうつしてさまし、押しずし用の箱に竹の皮を敷いた中に詰め、平らにして上に薄く切った具を並べ、また飯をつめて具を並べ、その上から酢を振りかける。上を竹の皮で覆ってから蓋をして重しをかけ、暫くしてから庖丁に酢を塗って切る。並べる具は、鯛・鮑・松菜・赤貝・木くらげ・栗・薄焼卵・筍・椎茸・みつばなどから選んで組合わせ、それぞれ下ごしらえをして用いる。薬味は蓼(たで)・山しょう・生姜など。」 |
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これを見るとすし飯は、現在のように塩と砂糖を加えた酢を炊きたての飯に混ぜるのではなく、塩は炊き水に加え、砂糖は用いず、酢はすし箱に詰めてから適量を振りかけています。塩が現在の分量の約3倍と多いのは、塩の精製度が低いためでしょうか。押しずしからも、当時の食の特色が見えてくるようです。 |
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注) |
こけらずしの名は、すし飯の上の薄切りの具の並べ方が、こけらぶき(薄い木片のこけら板でふいた屋根)のように見えるところからといいます。 |
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