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花揃春対面
歌川国貞(二代)画 明治元年(1868) 国立国会図書館所蔵
 
 桜の季節が近づきましたので、華やかな「花揃春対面(はなそろひはるのたいめん)」の絵を選びました。この絵は宮廷の官女風俗を扱っており、NO.97でとりあげた源氏絵の影響をうけて明治期に流行した、御所絵とよばれるものと思われます。
 絵の場面の物語はわかりませんが、食文化の面からみると、式三献
(しきさんこん)の光景のようです。
 
 式三献は、正式の祝賀の饗膳の初めにすすめる盃三献の礼式で、室町時代に始まるといいます。一献は一つ目の盃に三度酒が注がれ、二献は二つ目の盃に三度、三献は三つ目の盃に三度酒が注がれるので、三献で酒は九度注がれることになり、三々九度の盃事として現在でも婚礼に残っています。
 一献ごとに酒肴として、熨斗鮑(のしあわび)、搗栗(かちぐり)、昆布などが供されますが実際には食べず、形式的なものだったようです。
 
 この絵では、左端の長柄の銚子を持った官女の右に、熨斗鮑をのせた三方と、三つ重ねの盃をのせた三方があります。熨斗鮑は鮑の肉を薄く細長くむいて、のばして乾燥させたものです。鮑は古代から美味で不老長生の薬として珍重された食品で、乾燥して保存できるので高級贈答品として用いられ、熨斗鮑も初めは食品でしたが、後には吉事の印として贈答品につけられるようになりました。現在でも、鮑には関係のない「のし」として贈答品につけられています。
 中央の大きな台は洲浜台(すはまだい)とよばれるもので、祝儀の饗宴の飾り物です。台の形が洲浜(波打際が湾入して曲線の形の浜)の形状にならって作られ、その上に蓬莱山(ほうらいさん)や鶴亀などの作り物を設けたものです。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
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