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上の絵は『偐紫(にせむらさき)田舎源氏』の中の挿絵を錦絵化した「源氏絵」の一つです。『偐紫田舎源氏』は、『新日本古典文学大系』(岩波書店)の88巻に上巻、89巻に下巻が収録されています。上巻にあたる解説には「この書は、柳亭種彦が『源氏物語』を翻案・合巻化した異色の作品で、彼の代表作の随一に挙げられる。人気浮世絵師歌川国貞(のちの三代豊国)の挿絵で、文政12年(1829)に書肆(しょし)鶴屋喜右衛門から初編を刊行、以降天保13年(1842)の38編まで刊行され熱狂的な人気を博したが、天保の改革に際し当局の忌諱に触れて、同年絶版の処分を受けた。未完に終わった39編・40編を含むほぼ全編にわたる肉筆原稿が種彦後裔(こうえい)の高屋家に保存されている」とあります。
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『偐紫田舎源氏』の時代は室町時代に設定され、『源氏物語』の光源氏にあたる主人公は足利光氏(みつうじ)で、美貌知勇の貴公子です。上の絵の右側の立姿が光氏で、物語では三月朔日(ついたち)の祝いに、海女(あま)たちが桜鯛・鮑・若布などのさまざまの海の物を、光氏に献じているところです。三月朔日の祝いとあるのは、物語では朔日が巳の日にあたり、陰暦三月の初めの巳の日は上巳(じょうし)の節供で、後には三月三日に固定した雛の節供にあたります。この日は水辺に出てけがれを祓(はら)う行事をしました。
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上の絵を『偐紫田舎源氏』の19編にある挿絵とくらべると、挿絵には見られない太刀持が右端に描かれており、5人の海女が4人になっています。19編は『源氏物語』の「須磨・明石」の巻に当たり、挿絵の解説には、左から3人目の海女は朝霧(明石の上)のやつし姿とあり、衣裳や髪型が他の海女とは違っています。
左端の海女は魚を入れた浅い桶を頭上に載せていますが、平安・鎌倉時代の絵巻物には、女性の頭上運搬はよく見られます。
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