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嘘真言心之裏表
歌川国芳画 『魚づくし』組本社刊
 中央の女性の左下には鯛と伊勢海老、右側にはそれを狙う猫がいる絵ですが、絵の題には「嘘真言心之裏表」とあります。上部に真言と嘘に分けて文章が書かれており、平仮名文を読みやすく漢字まじり文にして要約すると次のような内容です。
 嘘「これはお使いの衆、大きに御苦労でございますよ。ご無用になさるようお断わり申しておいたのに、お見事なお魚を沢山にいただき心苦しいことです。帰ったらよくお礼を申しておくれよ。お目にかかって数々お礼を申しますと、くれぐれもよく申しておくれよ。これまつや、おいれ物をあけてお返し申さねへか」
 使いの者が届けてきた鯛と伊勢海老は見事なものですし、まつという使用人に器を返すように言いつけていますから、女性は大きな商家の主婦と思われます。
 真言「こんな魚をよこして、今時分礼でもあるまい。今まで一向に挨拶もなく、魚など貰いたくない。それそれ猫に気をつけなよ」
 真言は誠と書くのが普通で、嘘いつわりのないことをいいます。相手からなかなか挨拶がなく、腹立たしく思っていたところへ魚を届けて来たので、今頃になってと文句を言うかわりに、心にもないお礼を言っている場面です。
 『ことわざ大辞典』から、嘘についてのことわざをいくつか拾ってみました。
 「嘘は誠の皮、誠は嘘の骨」は、嘘と真実は身体の骨と皮のような関係で、真実を覆い隠すのが嘘で、嘘をあばくと真実があるという意味。「嘘も方便」は、嘘も時によっては必要なこともあるという、嘘の社交的効果を認めることわざ。「嘘も追従(ついしょう)も世渡り」も、「嘘も方便」と同じような意味のことわざです。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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