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其由縁 十二時半 子の刻
歌川豊国(三代目)画 『魚づくし』組本社刊
 『魚づくし』には、この絵を「其由縁 十二時半 子の刻」としています。わかりにくい題ですが、子(ね)の刻は現在の時刻でおよそ午後11時から午前1時の間の時刻です。絵の右上に見える外の雪景色が、夜景にしては明るいのは雪明かりでしょうか。
 室内の2人の女性、台の上の料理や酒器などから見て、場所は吉原のようです。
 雪見は江戸の人々の冬の楽しみで、隅田川堤・長命寺・上野東叡山・不忍池・日暮里諏訪社の辺など雪見の名所は各所にあり、吉原の名もあります。
 『絵本江戸風俗往来』(東洋文庫)には、11月(旧暦)の雪の項に、「これ等の雪を見るに、彼の障子船に棹ささせ隅田川へ漕ぎ出すあり、また雪を踏みつつ翁の「ころぶ処まで」と杖によるあり。障子船は通客、帰りは船を竹屋の渡しの辺へつなぎ、有明楼さては八百善、または三谷堀へ漕ぎ入れ、吉原の夜雪をめずる」とあります。右上の雪景色の中の船は、夜雪をめずる障子船でしょうか。
 朱塗りの台の上には、煮物らしい料理を盛った深鉢と、右手には蓋付きの器があり、台の手前にも同じような深鉢があります。その左に徳利台があり、右側の女性は燗徳利を持っており、用意された箸の数から見て、これから何人か集ってくるようです。
 わからないのは台の中央にある赤い器です。蓋をして杓子がのせてありますから鍋物の鍋に見えますが、江戸時代には火にかける鍋に赤く塗ったものはないと思います。また平底に見えますが、七厘やかまどの時代に平底の鍋は考えられません。遊廓では、料理は仕出しをする台屋や料理屋に注文して運ばせていましたから、岡持(おかもち)かとも考えましたが、岡持は運ぶためのものです。絵師の遊び心による鍋かも知れません。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
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