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順慶町の夜店は大坂の名物で、曲亭馬琴の『羇旅漫録(きりょまんろく)』にも「順慶町の夜見世こそめさむるわざなれ。暮より四ツ時(午後10時)までは十町余両側みな商人なり。故にかひ物には夜出る人多し。」とあります。
夜店(夜見世)は夜間に出店する露店で、日中は露天、日没後は夜店と呼びました。順慶町の夜店の賑わいは「商人の燈火は天にかがやき、街の堤燈は星かとうたがふ」とも表現されています。
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『東海道中膝栗毛』の8編中巻で、弥次郎兵衛、喜多八は大坂見物をして順慶町にも行っています。「名にしあう此所は、夜見せはんじやうの町筋にて、両側内みせ出見せ尺地(せきち)もなく、万燈をてらし、呉服や、道具屋、ふくろもの、櫛笥(くしげ)、たいまい、珊瑚(さんご)、瑪瑙(めのう)の類あるかとおもへば、その隣には盥(たらい)、小桶、飯櫃(めしびつ)、すりこ木、杓子なんど、或は神棚もとめて代銭をはらひきよめて行あれば、仏像買ふて尻くらひ観音と、不足銭あたへてはしるもあり。傘(からかさ)の買人(かいて)に下駄をはくあれば、草履の賣人にわらじはくあり。両替(りゃうがえ)やは目を皿になして天秤を打ならし、金物やは口を剃刀(かみそり)にひとしく、きれものを商ひ」と雑多な夜店の光景を記し、肴屋では鯛、鱧、車海老、このしろ、鮪(はつのみ)などを売り、ほつこり(焼芋)を売るさつまいも売り、鯡(にしん)の煮物やあんばいよし、煎殻(いりがら)などを売る上燗屋(燗酒屋)、ちくら鮓・鯖鮓・鳥貝鮓などを売る鮓屋などもありました。
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上記の食べ物の中で、あんばいよしは豆腐田楽のこと、煎殻は鯨の肉を細かく切って鍋で煎り、油を除いて干したものです。千倉(ちくら)鮓は『名飯部類』によると、こけら鮓(薄切りの具をこけら葺のように鮓飯の上にのせた箱鮓)を、小倉鮓・千倉鮓・わかさ鮓・淀川鮓などの名で売っていたとあります。
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