バックナンバーへ
戻る
六十余州名所図会 伊勢 朝熊山の峠の茶屋
歌川広重画 嘉永6年(1853) 国立国会図書館所蔵
 東海道五十三次は江戸から京都までで、52番目の草津宿の次の大津宿を経て、京都の三条大橋に到着します。『東海道中膝栗毛』の弥次郎兵衛と北八は、43番目の四日市と、次の石薬師の間にある追分から伊勢路に入り伊勢神宮に向います。伊勢路は伊勢街道、伊勢参宮道とも呼ばれ、伊勢湾の西に沿って追分から神戸(かんべ)・白子(しらこ)・上野・津・雲津・松阪・櫛田・小俣(おばた)・山田まで14里21丁で、途中で西国からの参宮者も加わり賑わっていました。
 弥次・北は山田に着いて宿場に泊り、翌日内宮と外宮に参拝しますが、参拝をすませたところで弥次郎兵衛が腹痛さわぎをおこしたりして、伊勢参宮の話は終わっています。2人は伊勢から奈良街道を京都へ向い京都見物をし、次は大坂見物をゆっくりと楽しんでいます。
 上の絵は伊勢の名所、朝熊山(あさまやま)の峠の光景です。朝熊山は伊勢市の東部にある霊山で、里宮(さとみや)の伊勢神宮に対する山宮(やまみや)として古くから崇敬されていました。「伊勢へ参らば朝熊をかけよ、朝熊かけねば片参り」と歌われ、伊勢参宮をする者は朝熊山へも登拝し、片参宮を避ける慣例でした。朝熊山の経が峰の東腹にある金剛証寺(こんごうしょうじ)は臨済宗の寺で、伊勢神宮の鬼門に位置し、天長2年(825)に弘法大師が建てたといわれています。
 朝熊山は標高が533メートルですが、伊勢志摩国立公園の中では一番高く、頂上からは伊良湖岬・知多半島・富士山・伊豆半島まで展望でき、夜景も素晴らしいそうです。
 朝熊峠は頂上より低くなりますが、上の絵で見ても当時から眺望のよさで名所だったことがわかり、大きな茶店も賑わっています。
 食べ物の話が出ませんでしたが、伊勢の名物については次回にとり上げます。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
掲載情報の著作権は歌舞伎座に帰属しますので、無断転用を禁止します。
Copyright(C) 2011 松下幸子・歌舞伎座サービス株式会社