バックナンバーへ
戻る
11月27日、鞠子宿での食事
麦飯、とろろ汁、太刀魚雪花菜焼、野菜の煮物、あちゃら漬、安倍川餅
 五十三次の鞠子(現在の静岡県丸子)の宿の献立は「麦飯、とろろ汁、太刀魚の雪花菜(きらず)焼、野菜の煮物、あちゃら漬、菓子は安倍川餅」です。鞠子のとろろ汁は、芭蕉の「梅若菜まりこの宿のとろろ汁」の句から有名になったといわれています。
 
とろろ汁は、現在は一般に醤油味ですが、江戸時代はおもに味噌仕立でした。今回は味噌を用いましたがとてもおいしく、味噌もとろろ汁にあうことがよくわかりました。
 とろろ汁の材料のヤマノイモは自然薯
(じねんじょ)で、ナガイモは薯蕷(じょよ)であり、同じヤマノイモ科でも別の種類です。ナガイモは栽培種で品種が多く、長薯・いちょう薯・徳利薯・大和薯・豊後(ぶんご)薯などがあります。
 太刀魚の雪花菜焼は、東海道の名物ではありませんが、魚肉とおからが材料で、現代人の嗜好にもあう江戸時代の料理なので、復活させたい願いもあって献立に加えました。
 作り方は『豆腐百珍続編』(1783)に「太刀魚の炙物
(やきもの)」として次のように書かれています。「大たち魚を三片(まい)におろし、肉の方をうす塩あて、生の雪花菜に少し塩をまぜ合せ、右の肉を鮓につけ、圧石(おもし)をよくかけ一夜ほどをきてとり出し、雪花菜を払はずそれながら炙なり。」太刀魚を3枚におろして薄塩をあてておき、おからに塩少量をまぜたものを、魚肉の両面に付けて、おもしをしてよく接着させて焼くということですが、フライパンに多目に油を引いて両面を焼くと美味です
 あちゃら漬けは、ペルシャ語のアチャル(漬物)が、ポルトガル人によって伝えられたのが語源とされ、現在は野菜の甘酢漬ですが、江戸時代には魚介類も用いていました。
 
安倍川餅は、安倍川の辺の茶店で売り始めたもので、焼いた切餅を湯に浸して軟かにし、砂糖をまぜた黄粉をまぶしたもので、後には餡をつけたものも作られるようになりました。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
掲載情報の著作権は歌舞伎座に帰属しますので、無断転用を禁止します。
Copyright(C) 2010 松下幸子・歌舞伎座事業株式会社