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上の絵は3枚続きの美しい錦絵ですが、絵の題が見当たらず、目録には「源氏君花月遊」とあります。中央に『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』の主人公光氏(みつうじ)がいて、襖には源氏香の図がありますから、江戸後期に流行した「源氏絵」です。
主人公は筆を持って短冊に書いており、傍の女性は団扇(うちわ)を持っていますから、季節は7月で七夕の準備らしく、女性たちの服装から見て場所は遊郭でしょうか。
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光氏の手前には硯(すずり)がありますから、机の上の緑色のものは芋(里芋)の葉と思われます。山東京山の『五節供稚童講訳(ごせっくおさなこうしゃく)』(1833)の中に「芋の葉の露にて短冊書く事」として「これは町方などには芋畑稀(まれ)なるゆえせぬ事なれども、昔よりする事なり。七夕様、一年に一度会い給ふゆえ、一夜に百人の子を儲(もう)け給ふといふ俗説によりて、子育て、または子を授け給へと祈る者、芋の葉の露にて願い事を短冊に記して献(ささ)ぐれば、願ひ事叶(かな)ふといふ。芋は子の沢山あるものゆえに、その葉の露を墨にすることと、昔の書に記せり。」とあります。昭和初期にも、芋の葉の朝露を集めて墨をすった記憶がありますが、その理由は知りませんでした。
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絵には釣燈籠がいくつも見えますが、幕末の風俗を記した『絵本江戸風俗往来』には、江戸市中では7月1日の夕方から、盆の仏の供養のため家々では軒に燈籠や提灯をつるし、吉原でも燈籠をつるすと書かれています。
『本朝食鑑』(1697)には「7月15日は生荷葉(はすのは)で強飯を包んで膳に盛り、荷葉で刺鯖(さしさば)をくるんでこれに添える」とあります。また刺鯖のつくり方は、腸と鱗を除いた鯖を背から開き塩漬にして干し、一つの頭をもう一つの鰓(えら)の間に刺し入れて重ね、これを一刺というと説明しています。なお7月15日は中元といい、盆に当たります。
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