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上の絵は柳亭種彦の『偐紫田舎源氏』に題材をとった源氏絵の一つで、須磨の浦を背景に豊富な海産物が描かれています。左下の篭の中は蛤のようですが、左上の女性の頭上の桶には魚が満載で、中でも鯛が目立っています。桜が咲き季節は春ですから桜鯛とよばれる鯛です。
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天保2年(1831)の『魚鑑』には、鯛の項の中に「四時ありとはいえど、桜花盛りのころ、最美(よ)し。よってさくらだいと称ふ」とあります。
料理書では『鯛百珍料理秘密箱』(1785)に桜鯛について「是は春三月ごろ、さくらの花のころ、海の面(おも)のどかにして、遊漁浪にたはぶれをなすなり。この時分、鯛にかぎらずもろもろの魚、身に子をやどし、さくら鯛とて一しほ風味よきじぶんなれば(後略)」とあります。
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現代の辞書で桜鯛を調べてみると、『広辞苑』には「(1)桜花の咲く頃、産卵のため内湾の浅い所に群集して漁獲される鯛。(2)スズキ目の海魚、体長約20センチ、鮮かな紅色、下位の食用魚。」とありました。
(1)は江戸時代の説明と同じですが、(2)は全く別の桜鯛です。桜鯛が真鯛の季節的な名称なので当然なのかも知れませんが、魚類図鑑や魚の事典類には(1)はなく(2)が記載され、もう一つの桜鯛もありました。
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それはタイ科のアサヒダイともよばれるもので、アフリカのサハラ沖でとれ、最大40センチ。肉が軟かく西京漬などに向き、一塩干しは興津鯛なみで味がよいそうです。
魚には成長によって名の変わる出世魚もあり、地方による名称もあってわかりにくいのですが、外国産や深海魚も加わると、ますます難しくなりそうです。
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