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秋田ふきの図
五雲亭貞秀(歌川貞秀)
 国立国会図書館所蔵
 俄雨の中を、秋田フキの大きな葉を傘の代りにかぶって、左端に見える家の方へいそぐ2人を描いた珍しい風景のうちわ絵です。
 こんなに大きなフキが本当にあるのかと思いますが、五雲亭貞秀は地理に関心をもった浮世絵師で、幕末期には北は北海道松前から南は九州まで歩き、「大日本国郡名所」の作もあるそうですから、秋田フキも現地で見たのでしょう。

 『和漢三才図会』(1712)には蕗(フキ)の項の中に「奥州津軽の産(アキタフキ)は肥大で、茎のまわりは四、五寸。葉のさしわたしは三、四尺もあり、傘の代りに用いて俄雨を防ぐという。しかし南方の人はこれを聞いて本当にはしない」とあります。
 青葉先生の『日本の野菜』(1983)には秋田大蕗について次のように書かれています。

 
「東北地方や北海道に大形の蕗があることは古くから知られ、江戸時代の多くの書物に珍奇なものとして記されている。秋田大蕗はその中でも巨大なもので、寛延年間(1749頃)雪沢村の長木沢で見出したものと伝えられている。秋田大蕗が全国的に有名になったのは、当時の秋田藩主佐竹義峰侯が江戸で諸侯に蕗のことを話したところ一笑に付されたので、早飛脚で長木沢の蕗を江戸に届けさせ諸侯を驚かせたことからで、以来秋田蕗の巨大なことが全国的に知られた。」
 秋田大蕗が栽培されるようになったのは天保の頃(1840年頃)といわれており、明治15年に砂糖漬に加工されて市販されるようになり、秋田の名産品の一つになっています。このフキは質が硬くて苦味があるので野菜としては使われていません。
 普通のフキは、数少ない日本原産の野菜の一つで古代から栽培され、フキノトウは薬用としても利用されていました。江戸時代にも汁、和え物、煮物などの料理の材料でした。

 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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