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四季の遊覧 夏
歌川房種画 文久2年(1862) 国立国会図書館所蔵
 江戸時代の夏は4・5・6月で、現行暦の5・6・7月にあたります。夜空には満月が明るく、池からの風は涼しく、夢のような源氏絵です。池に咲いているアヤメ科の花は花菖蒲のようで、左端の女性は鋏を持ち、花を1本手にしています。
 絵の中の食べ物といえば、主人公の前のお菓子とお茶で、お菓子は盛り方から見て、干菓子の落雁類と思われます。

 
 落雁は糯米やうるち米、麦類その他の穀物の粉に水飴や砂糖を加えて、木型に入れて押し固めたものです。
 江戸初期には、丸や四角などの単純な形だったようですが、元禄2年(1689)刊の『合類日用料理抄』には、菊・扇・草花その他を彫った木型を使う落雁の作り方があります。その後木型づくりの技術が進歩して、江戸後期には豪華な落雁が作られるようになり、上流階級の贈答や行事に使われました。
 
 落雁は庶民にも親しまれていたようで、ひな祭のお菓子として各地で落雁が用いられています。文化10年(1813)頃に、幕府の奥儒者屋代弘賢が諸藩に「風俗問状」を送って調査した結果によると、現存する答書16の中の6ケ国が、魚類や貝の形の落雁をひな祭には供えると答えています。
 
 また、花菖蒲の栽培も江戸中期に武士階級の趣味として盛になり、品種改良が進んで多くの品種がつくり出され、庶民にも普及して流行したといいます。つくり出された所によって、江戸花菖蒲、伊勢花菖蒲、肥後花菖蒲の3群があり、外国にも輸出されて新しい品種ができ、現在では外国系花菖蒲もあります。
 現在の私達を楽しませてくれる落雁や花菖蒲は、江戸時代の人々からの贈り物といえそうです。

 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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