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前回と同じ「今世斗計十二時」で、「巳(み)ノ刻・日ノ四ツ時」とあるので、現在の午前10時頃にあたります。右上の文は判読できない字もありますが、中央の女性は起きたばかりの芸者のようです。鏡台の前で歯を磨いており、手前には口すすぎや手洗いに使う耳だらいがあります。
左上の物売りの荷には、金山寺ひしほ、漬物品々と書かれています。
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『守貞謾稿』(1853)は、漬物売りについて江戸と京坂を比較しながら詳述していますが、その中に「江戸は諸香物(こうのもの)および煮豆・嘗物(なめもの)・味噌の類をも兼ね売る。煮豆を三都(江戸・京都・大坂)ともに坐禅豆といふ。また三都ともになめものに、さくらみそ・金山寺みそ等あり。金山も禅寺の名。また江戸に鉄火みそといふもうる。京坂になき所なり。鉄火は博徒の異名なり」とあり、この物売りは江戸の漬物売りです。
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金山寺ひしほは、金山寺みそともよび、なめみその1種で、中国淅江省の径山寺(きんざんじ)で最初につくられたものが伝来したところからの名といいます。大豆と大麦の麹に食塩水を加えて仕込んだ中に、茄子やしろ瓜などをきざんでまぜて熟成してつくります。
さくらみそと鉄火みその作り方は料理書には見あたりませんが、さくらみそは麦みそに牛蒡やしょうが等をきざんでまぜ、飴や砂糖で甘味を加えた練りみそで、鉄火みそは赤みそに炒り大豆、きざみ牛蒡などをまぜ、砂糖や唐辛子も好みで加え、胡麻油でねりながら煎り上げたもののようです。 |
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なお、歯磨きに使っているのは房楊子で、柳の木を箸のように切り、先端をたたき砕いて房のようにしたものです。鏡台の上の長方形の小箱には歯磨き粉が入っています。 |
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