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今世斗計十二時 辰ノ刻
五渡亭国貞(三代目歌川豊国)画 国立国会図書館所蔵
 絵の左上には「朝床に煙草のけぶりふかしつゝ 長屋いぶせきかゝあ大将」とあり、起きたばかりの女房は大きな顔で煙草を吸い、亭主は台所でご飯を炊いています。
 『江戸の女』(鳶魚江戸文庫2・中公文庫)の中の「女の世の中」の項に、江戸の町方では男が多く女が少ないので、長屋住まいの家庭ではかゝあ天下となり、夫は朝から働きに出るのに妻は遊び歩き、夕方夫が帰ると水を汲ませ煮炊きをさせたりし、妻は主人のようで夫は使用人のようであるとあり、この絵のような光景は珍しくなかったようです。

 また「今世斗計十二時 辰の刻」「日の五ツ時」とあり時刻を示しています。現在は時間をはかり時刻を示す機械は時計ですが、辞書で調べると、土圭・斗計・斗鶏・斗影などの漢字も使われています。
 日本の時計は、天智天皇の水時計に始まるといわれていますが、機械時計は室町末期にキリスト教と共に伝来し、江戸時代には日本でも時計が製作されるようになりました。当時は昼夜をそれぞれ6等分した不定時法でしたから、江戸時代の時計は和時計とよばれ、上流階級の家庭にはかなり普及していたようです。明治5年の改暦で定時法が採用され、現在のような1日24時間の時計になりました。

 和時計では子の刻から亥の刻まで12の時刻に分けられ、辰の刻はその時刻に打つ鐘の数で五ツ時ともいい、現在の午前8時頃でした。

 炊飯の方法もかまどで薪を燃料としていた江戸時代と現在とでは大きく変わりました。『名飯部類』(1802)には、家常飯(普通の飯)の炊き方のコツとして「飯炊くに初チヨロチヨロ中バンバン 沸(ふき)ての後は少しゆるめよ」とありますが、ガスや自動炊飯器で炊く現在では通用しなくなりました。
 監修・著 松下幸子千葉大学名誉教授
>>松下教授プロフィール
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