夜の部「楼門五三桐」で、女形に扮した市川猿之助さんは、劇中台詞でさりげなく「ちょっと古い言葉ですがお客様は神様です…」と、30年の間公演が続けられてきたことに謝辞を述べました。
舞台は豪華な装置が次々と展開し、観客は甘美な踊りに目を奪われ、終盤はトンボを切る若人との大立ち回り…。
そしてやはり会場の熱気のハイライトは、やはり花道に頭上高く吊り上げられた葛篭(つづら)から石川五右衛門に扮する猿之助さんが飛び出して、空間を舞う“つづら抜け”の宙乗り。まさに、客席全体に長い長い拍手と歓声が湧き起る瞬間です。
さて、この「市川猿之助七月大歌舞伎」初日のあく2日前、歌舞伎座では恒例の「宙乗り安全祈願祭」が厳かに行われました。
凛とした空気。花道を遠巻き見守る大勢のスタッフと関係者。すっぽんの真上には祭壇が祀られ、宮司の祝詞が場内いっぱいに響き、お祓いはスタート。場は清められていくのが肌でも感じられるような、独特の緊張感が漂います。
主演の市川猿之助さん、松竹大川専務、歌舞伎座金田支配人に続き、大道具、照明、管理部など、興行に関わるすべての関係者が花道に招かれて玉串を奉げ、それを遠巻きに見守る100名を超えるそれぞれのスタッフが、拍子を合わせて拝礼します。
散会後、作業にもどる大勢のスタッフを背に、ひとり花道に近づき静かにピアノ線で吊られている葛篭を見上げていた猿之助さん。その瞬間だけはひとりの役者の顔に戻られたような気がしました。 |